“客”である前に、“人”として来てください

ことばの宿

その日は閉店時間が近づき、店内は一息ついた雰囲気だった。
スタッフも軽く片づけに入り、お客さんたちも名残惜しそうに最後の一杯を楽しんでいた。

そんなとき、ひとりの男性がドアを開けて入ってきた。

「まだやってんだろ? 入れてくれる?」

――ぶっきらぼうなその声に、空気がすっと冷えた。

さらに、続けてこう言った。

「俺、客なんだけど?」

あぁ、そう来たか……と思った。


この店には、明文化されたルールブックはない。
でも、**僕の中にだけある“店のルールブック”**は、ちゃんと存在している。

それは接客マニュアルでもなければ、サービス精神だけで成り立つものでもない。
むしろ、**「人としての関わり方」**そのものに近い。


実はね、たとえそれがだったとしてもいいんです。
「知り合いから、ここの料理がすごく美味しいって聞いて来たんです」とか
「外観が素敵で、ちょっと気になって……いいですか?」

――そんなふうに言われたら、人としてうれしいじゃないですか。
こちらも心が自然とやわらぎます。
だって、僕だって人間ですから。

そうなれば、たとえいっぱいだったとしても、何とかしてあげようかなって気持ちにもなるんです。


だけど、今回のお客さんは違いました。

「俺、客なんだけど?」

その一言に込められていたのは、「客は偉い」という空気
そして、「入れないなら文句言うぞ」という圧。

そのとき、私はふと思いました。
**“お客様は神様です”という言葉の、本当の意味を知っていますか?**と。


この言葉の由来、誤解されてるんですよね。

演歌歌手の三波春夫さんが、
「お客様の前で歌うときは、神様に奉納するような気持ちで心を込めて歌う」
という意味で言ったのが始まりなんです。

つまり、“神様のように扱われるべき存在”ではない
それが、いつの間にか都合の良い意味でひとり歩きしてしまった。


そんなふうに横柄な態度で来られると、
「ごめんなさい、今日はいっぱいなんです」
なんて丁寧にお断りするのも、なんだかこっちが負けたような気がしてしまう。

でも私は、声を荒げることも、無理に納得させることもしませんでした。

ただ、静かに、はっきりと伝えました。

「申し訳ありません、もうお席のご案内はできません」

それだけでした。


そのお客さんは、不満そうに舌打ちして出ていきました。
でもね、それで良いんです。

この店を守るのは、僕です。
そして、その店の空気を守るのも、僕の責任です。

「いいことはお客さんのおかげ。
悪いことは自分のせい。」

それが、僕が店をやるうえで大事にしている考え方なんです。
実際、お客さんに言われました。
すごい!あんな言い方聞いたら・・・良かった。帰ってくれて!
食事は楽しむべきです。どうぞごゆっくり!


“ルールブック”は、こちらにあります。
それはマナーではなく、人としてどう在るかという姿勢。

それが合わなければ、無理に来ていただかなくても構いません。
そして、次の機会にでも、ふと思い出してくれればそれでいいんです。

「感じがいい店だったな」って。


✨ おわりにひとこと

「お客だから偉い」じゃなくて、
「人としてちゃんとしてる」からこそ、気持ちが通じ合う。
そんなふうに、温かいやりとりができる店でありたいんです。
そう思いませんか!


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