飲食店を営んでいると、日常のどこにでも物語が潜んでいることに気づかされます。
そのひとつが、なんと「トイレ」。
そう、あの水回りの話なんです。

お客さまが何気なく立ち寄る場所だけれど、じつは店主にとっては毎日何度も目にする現場。
ときに驚くほどの“置き土産”があったり、紙が異常に減っていたり。
汚れているのを見るたび、「せっかく料理を大切に出しているのに…」という気持ちが心に溜まっていくのです。
もちろん、最初は“貼り紙”で注意していました。
「トイレットペーパーを大量に流さないでください」
「綺麗に使ってください」
でも…どうも違う。
命令やお願いのような文章は、読む側に“反感”を生むことがあるんです。
わかりますよね?
たとえば旅先のレストランで、トイレに入った瞬間、真っ先に目に飛び込んでくるのが「汚すな」「流すな」「使いすぎるな」って並ぶと、何だか自分が怒られてる気がして…ちょっと嫌になります。
そんな経験、ありませんか?
「もっと心に響く言葉って、あるはずだ」
そう思った店主は、言葉を探す旅に出ました。
──ネットを見て回り、AIにも相談し、詩集をめくって、何十パターンも書き出してみる。
でも、どれも“伝えようとしすぎて”いて、ピタッと来ない。
「こうしてほしい」という気持ちが前に出すぎると、かえって相手の心は離れてしまうのかもしれない。
そんなとき、ふと頭に浮かんだのが「トイレの神様」──あの歌の一節。
“神様”が語りかけるような、優しく、少しユーモアのある言葉ならどうだろう?
そこで生まれたのが、女子トイレに貼られたこの言葉です:
ようこそ、清き水の聖域へ
私はここの女神です。
この場所に訪れたあなたの悩みやモヤモヤ、不運までも受け止め
すべてを静かに水へと流し、身も心も軽くするお手伝いをしているの。
あなたが清々しいきもちで、新たな一歩を踏み出せる様に、、、。だけど、、私から一つお願いがあるの。
流していいのは、心の重みだけ。紙(カミ)は、ほどほどになぜって?めがみにとって、紙は分身の様なもの。
だからたくさん流されると、、、女神の力が削られてしまうの!そうなると、どうなるかしら?
トイレはやばい。詰まり(つまり・・・)大変なことになるのよ!だからお願い。紙(カミ)とは、上品にほどほどに付き合っていただけるかしら?
そうしてくれたら、わたしは幸せ。
そしてあなたにも、きっと素晴らしい1日が訪れるはず。おねがいしますね。
トイレの女神より
これは、命令でもお願いでもない。
でも読んだ人の心に、ふっと風が吹くようなやさしさを残す言葉でした。
ある日、お手洗いから戻ってきた奥様が、カウンター越しにこんな風に話しかけてきたのです。
「すみません…あの、トイレに貼ってあったあの文章、あれ、どなたが書かれたんですか?
まさか、ネットで拾ったとかじゃないですよね…?」
ちょっと興奮気味にそう尋ねられました。
その姿を見て、隣にいた旦那さんも「え?何それ、女子トイレだけ?男のほうはどうなってんの?」と気になり始める始末(笑)
そのやりとりが、なんだか嬉しかった。
張り紙を写真に撮って帰る人もいたと聞いた時は、本当に驚きました。
こちらが「心を込めたことば」は、ちゃんと伝わるのだと。
言葉に「ちから」はある。でも「想い」がなければ届かない。
この貼り紙が伝えたかったのは、ただのトイレルールではありません。
人が、ほんの少しだけ、気持ちよく生きるための心構え。
その場を大切にする、ほんのちょっとのやさしさ。
それを言葉に変えただけ。
そして、こうして伝えられたのは、**命令でもない、お願いでもない、ただの“こころのつぶやき”**だったからかもしれません。
次回は、男子トイレに貼った言葉と、それがもたらしたもう一つの小さな奇跡について──。

